1960(昭和35年)/11/8公開 82分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:11896
配給:東映 製作:東映
自動車ブームに乗って繁昌するぽんこつ屋に働く、ややのろまだが純情な青年と美人女子大学生との明るい笑いに溢れた恋愛合戦を軽妙なタッチで描いた青春喜劇の大傑作。
猫も杓子もハンドル握る自転車ブームのおかげで交通事故は激増する一方である。そのため、とみに繁昌しているのが自転車の残骸を始末する商売、即ちぽんこつ屋である。東京の下町・本所堅川町にはこのぽんこつ屋が軒並み続いており、そのうちの一軒、犬塚商店には、機械がメシより好きな男がいる。彼の名は熊田勝利だが、主人の犬塚氏や娘の花江、それに同僚までが、マケ公だのマケトシだのと呼ぶ。生来、のろまで愚直であるが働き者である。そのマケトシ君、オンボロバスの中から三万円を拾ってビックリ。勿論、その金は警察に届けた。掃き溜めに鶴の例えの如く、ある日ポンコツ屋街に美しく溌剌とした女子大生・三津田和子が現れた。和子は父が酔っ払い運転で潰したルノーを、勝利になんと四万円でさっさと引き取らせた程のスゴ腕ぶり。今だに恋愛というものを知らなかったマケトシ君、それからというもの和子が忘れられなくなってしまった。和子は、早速そのお金で8ミリカメラとテープレコーダーを買ったのだ。その訳は…卒業を前にした扶桑女子大学の学生・和子と親友の水原美沙子の二人は、未だ卒業論文のテーマさえ決めていない態たらくで、再三にわたる銹びチャック(宮坂教授)のお叱りももう沢山と、思いつきのまま卒論を8ミリカメラとテープレコーダーを使って作ろうと、開校以来の型破りな戦術に出たのである。「交通事故の諸所云々…」という大それたテーマを抱いて和子と美沙子は先ず警視庁交通部の井沢第一課長にカメラとマイクを向けてゴキゲン。更に二人はテープを使って、近頃すっかり麻雀に凝った和子の父・三津田氏や母の妙子が、仲間の産婦人科医・斉藤氏や、耳鼻科の池野氏らと麻雀に夢中になっているさまをキャッチして、大人たちの遊びを茶化したりした。その上、卒論の製作資金を稼ぐため、動くお見合い写真なるものに思いつき、第一号のお客として川原しず代なる女傑に依頼されて彼女にカメラを向けたのである。チャッカリ屋の彼女たちの商塊は逞しい限り。ここは、マケトシ君が働いているぽんこつ置場。――「ヨーイ、ハイッ」和子のかけ声で、勝利君は勢いよくポンコツ車の運転台から転げ落ちる。彼は交通事故の現場を大真面目に演じて、和子たちに卒論のお手伝いである。仕事の合間にゆったりとした関西弁で身上話を語り出す勝利君。それに未来の機械文明の発達に備えての彼の心構えや機械を信ずるが故に、それを作る人間を信用したい」と続ける勝利君。そんな素朴な善意にふれて、和子の心は洗われるよう。美沙子は耕平君というボーイフレンドそっちのけで、すっかり勝利君に傾いてしまった。前々からこの勝利君に思いを寄せていた花江や、筋向いのカニメガネこと哲子はゴキゲンななめだ。そして幾月かを経て、和子と美沙子の卒論は見事、喝采を浴びたのである。一方、和子のことが頭を離れない勝利君は通りがかりの九官亭なる易者に「艶福の相あり、押しの一手でゆけ」と励まされた。和子と二人きりになるチャンスを狙え――というものの、常に美沙子が和子の傍を離れない。だが待てば海路の日和あり。そこへ耕平君が現れ美沙子を連れ去った。というのも和子が内証に耕平を呼んだのである。チャンス到来、だが恋のお話は大の苦手。すっかりドギマギした勝利君は折角の恋愛ムードを滅茶苦茶に壊してしまった。大いに消沈した後、美沙子をレストランに誘って相談を持ちかけるが、逆に美沙子が勝利君に恋を打ち明けられたと早合点したものだから大変。偶然、親のすすめでそこでニヤけた青年・沢崎と心進まぬ見合いをしていた和子がこれを知って大憤慨。その上、幾日かたって美沙子から「彼と箱根へ行って生理的事故を起こしてしまった」という電話を聞いたものだから、和子は大ショック。だが落ち着いて聞いてみれば、その美沙子の彼とは耕平君だったのである。和子は胸をなでおろす気持ちだった。だが、すっかり和子に嫌われたと心なげく勝利君の懐に、折も折、六ヶ月前に拾った三万円が飛び込んできた。落とし主が現れなかったためである。ヤケクソの彼は、主人の犬塚氏から競馬の馬券を買いにやらされたついでに、自分の三万円も全部注ぎ込んでしまう。8レースの4-3と頼まれたのだが、おっちょこちょいの勝利は11レースの4-3を買ってしまったがそれがケガの巧妙。11レースは大番狂わせで4-3に入ってしまったのだ。慌てふためく犬塚氏、彼は十九万、勝利はなんと百四万九千円の目の玉が飛び出るほどの大儲け。犬塚商店は天地がひっくり返るような大騒ぎである。さあ、勇気百倍は勝利君、和子の許へ韋駄天走り。和子の手を握って結婚を申し込む気の強さ。三津田夫妻もこの二人に心よく「OK」のサインを送るのであった。翌年の春うららかな大安吉日、熊田勝利と三津田和子、いや熊田和子は、美沙子・耕平の新夫婦はじめ皆が見送る中をぽんこつ部品を集めて作った自動車「エレクトロニクスK」号でさっそうと新婚旅行へと出かけていった。