1961(昭和36年)/2/26公開 103分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:11955
配給:東映 製作:東映
俺の祖国はどこにある!日本の黒い海に青春を奪われた男の絶叫!李ライン周辺で操業中の日本漁船が度々拿捕される政治的問題を長期取材で書いた水木洋子のオリジナル脚本を得て、巨匠今井正監督が迫力ある演出で描いた野心大作。
夕日が漁港の入り口を赤く染めた。その夕映えを破るように警笛が鳴り響き、漁船が一隻、船体を現した。日野漁業の底引き船第一日乃丸である。この主船第一日乃丸と、従船第二日乃丸は、後藤漁?長の指揮で、李ライン周辺に操業したために、怪船に攻撃を加えられた。第二日乃丸は拿捕され、逃げのびた第一日乃丸も銃弾を浴び、斗い疲れての帰港であった。第二日乃丸の船長である長男一郎を奪われた漁撈長の家では、母きよ、一郎の子を腹に宿した夜目千鶴子が怒りと悲しみに泣く。第一日乃丸の若い船員木村と茂樹は、海に命をかける仲間だ。港へ帰ってきた二人を美果子が花のように笑って迎えた。美果子は街で果物を売っている娘。木村はそこで、思いがけなく小学校で一緒だった石田に逢ったが、何故か木村の顔に暗いものが流れた。茂樹は、木村を誘って街の女を買った。木村の傍に横になった女は、木村の生まれを見ぬいた。「パンチヨツパリ!半日本人!」木村は日本人ではなかった。相次いで、日本漁船が逮捕されてゆく。木村は彼の故国がひくこのライン問題で、複雑な境地に追われた。
半月後、新船主矢坂は第一日乃丸と第二矢坂丸を組ませ、出漁の準備に掛かった。石田も矢坂に雇われ、又、第二日乃丸逮捕と共に、銃弾を受けて死んだ西岡甲板長の長男浩も第一の漁夫だちの仲間に入ってきた。その頃、石田は美果子を誘って港へ出た。彼は突然、美果子を抱いた。だが美果子は拒んだ。「木村が好きなんじゃな!」石田は木村の暗い秘密を知っていた。
出航の前日、真実を叫べという強い石田の説得の前に、木村は身を裂かれるような苦しみの中で、遂に漁撈長に自分の故国を告白した。だが漁労長には既に木村の母から手紙が届いていた。漁労長は漁夫たちに、木村の生まれを明らかにした。茂樹も石田も、そして漁夫たちでさえ、木村を明るい笑顔で囲んだ。出航の警笛が鳴る。木村はその中で、美果子にも告白した。真黒い荒波のうねりの中に、日乃丸、矢坂丸が木の葉のように進む。灯火管制の闇の中に突如争いが起こった。漁夫松村が木村をスパイと罵ったからだ。松村は五年間の抑留のため、木村の故国を徹底的に憎んでいた。二度目の網が投げられた時、突然怪船が真黒い船体を現し第一日乃丸を追った。ざわめきたった甲板に機関長が運転不能を報せた。折悪しく網がペラにからんだのだ。「早く網を切れ!」船長二郎の叫びが終らぬ中、ナイフをくわえた石だと茂樹が浪間に飛びこんでゆく。次に木村、続いて松村が海中に没した。網はなかなか切れない。漁夫たちの焦慮する中、浩が制止を振り切って波間に消えた。網はペラから切り離された。だが浩が浮き上がってこない。木村は再び海中にもぐって浩を救出した。だが、この時、怪船が迫り、第一日乃丸に接舷した。警備官が小銃を携えて一人、日乃丸に飛び移った瞬間、日乃丸の甲板に残された唯一の警備官は、直ちに石田、茂樹ら漁夫たちにとり囲まれ船室に追われた。木村は漁船を守るべく、故国語で警備官に折衝を始めたその時突如、エンジンがストップした。警備官から奪った小銃を抱いた石田は、茂樹らと共に会談を駈け上がった。彼等に続こうとした木村を石田が突然突き飛ばし、銃口を警備官と木村に向けた。茂樹たちと共に甲板上に這い上がった石田は漁労長、次郎、浩らと共に海中に飛び込んだ。木村が船室からようやく踊り出たとき、流れ弾がその体に命中した。第一日乃丸を完全に怪船が拿捕。同胞であるべき警備官たちの憎しみに燃えた私刑を浴びながら、木村は悲痛に息絶えた。日本巡視船「あまつ」に救出された漁夫たち――彼等は、怪船に曳船されてゆく日乃丸を遠く見守った。「畜生!」「木村は残ったんだ!」「裏切るのは始めからわかっちょる!」口々に木村を罵る中に、唯、漁労長だけは黙っていた。その背に、木村かと思われる程、逞しい声が響いた。「僕は一生舟に乗ります!」木村に命を救われた浩がその決意を洩らした。太陽が海上をのぼり始めた――。一青年の不幸な生涯を呑んで海は既に斗いの色を消していた。