1961(昭和36年)/3/14公開 68分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:12208
配給:東映 製作:東映
大小無数の煙突がひしめく工場街を舞台に、一流会社をスパッとふってオンボロ工場の建て直しに意気燃やす無鉄砲な快男児の恋あり、笑いあり鉄拳ありの型破り青春編。
大小無数の工場がひしめく工場まち千住。その象徴、通称“お化け煙突”のたもとに、桐野太の働く川島鉄工所がある。社長の川島半蔵と娘の知子、それに職工長の武田に桐野を含めて、従業員がやっと十人程度という町工場ではあったが、桐野青年にとっては唯一にして最良、甚だ住み心地の良い職場だった。それ故に、学生アルバイト次代から、卒業した今に至るまで、ここで、油だらけになって働いているのである。桐野の下宿先、堂本助産院の堂本みつは、桐野が、彼女の産婆稼業歴第一号(一貫匁は楽に越していたという)であるという事から、親代わりに面倒を見ていたが桐野が大学卒業後も、そのまま川島鉄工所で満足気に日をおくっていることが、何としても不満だった。ある日、堂本みつが川島鉄工所へ駆け込んできた。その手には、柄に合わない新刊書が三冊、「出世物語・小山隆介」今を時めく、小山モータースの社長の自叙伝であった。
二十年前、列車内でひとり娘のマリ子をみつに取り上げて貰ったという恩から、小山社長は桐野の就職を引き受けた。だが、就職試験当日肝心の桐野はしたたか酒を飲んで登場、小山社長を怒らせた。然し、これは川島鉄工所に愛着の情を断ち切れぬ桐野と、彼をひそかに想う知子の苦肉の策であった。実地技術しけんでオートバイに乗らせられる受験生たち。酔眼朦朧の桐野もふらつきながら、どうやらエンジンをスタートさせた。だが、がむしゃら運転の桐野のオートバイが予想外の結果を生み、桐野のペースに巻き込まれて他の車は次々と転倒落伍、結局、桐野の車だけが堂々、ゴールインするのだった。見事合格した桐野に、小山社長は祝福の言葉を浴びせたが、桐野は入社辞退を願って小山モータースを去った。その小気味よい態度に小山社長、村井総務部長は、逆にすっかり惚れこんだ。一方、不合格という桐野の報告に、知子だけは小躍りしたが、昔気質の半蔵、みつはすっかり憤慨、半蔵が小山モータースへのり込んだ。さて小山社長から、桐野の真意を知った半蔵はすっかり感激、是非桐野をと乞う小山社長の願いを今度は敢然として払いのけた。小山マリ子は父親の心配をヨソに、チンピラ仲間の女王気どりで、オープンカーを乗り廻しては遊び歩き、家に寄りつかなかったが、たまたま、佃という不動産業者の代理で再建取立ての書状を持って川島鉄工所にやってきた。担保にと、工場の軽トラックを持ち出すチンピラ達、もはや我慢ならじとばかりに桐野太の持前の正義感が爆発した。半蔵とみつは仲の良い茶のみ友達、一徹な半蔵が実は、知子と桐野が結ばれる事を願っていながら、竹田との口約束を気に病んで心とは裏腹に、竹田との結婚を知子に強いるのをしっているみつは、いつも半蔵を諭すのだったが、それが逆作用を生み、むきになった半蔵を残して知子は家出してしまった。いつしか桐野を恋する様になったマリ子が、桐野に近づかん為の作戦であった。川島鉄工所の作業器具が頻繁に紛失し、半蔵はイライラとした日をおくる様になった。その犯人は竹田であったが、息子の就職を気に病む老工員三宅もまた、準備金欲しさに炊けだの暗示にひっかかって、工場に忍び込んだ。その三宅を桐野が発見したが、事情を察した桐野は三宅を見逃した。器具を元の位置に戻している桐野を見いだした。竹田は、ここぞとばかりに騒ぎ立てた。半蔵からも疑いの眼で見られ、桐野は悄然と川島鉄工所を去ってゆくが、みつの計らいで、家出中の知子と会った。マリ子もまた、川島鉄工所を去り、傷心の桐野を伴って小山モータースの父親の許へ帰る。一度に淋しさを増した半蔵の許に、桐野の忠告で知子が帰ってきた。今度こそはと、ほくそ笑む竹田。半蔵も今はもう、知子が竹田と結ばれる事を望んでいたが、みつが意外な人を伴って川島製鉄所へ現れた。武田の子供を身ごもる初江という女だった。妊娠中の情婦をつきつけられて破れかぶれになった竹田は本性を現し、かねてから結託していた岡崎興業一派ともども、工場の乗っ取りを計ったが、小山モータースから駈けつけた桐野の獅子奮迅の働きで、その策略は粉砕された。
久しぶりに明るさを取り戻した川島鉄工所。桐野を囲んで、再建の意気に燃える一同の処へ、小山社長が突然、姿を見せた。小山モータースの下請け工場として、部品の製造を担当して貰いたいと語る小山社長。思いがけぬその申し出に、パッと眼の前が開ける思いの一同。手を握り合う小山社長と半蔵、嬉しげにそれを見つめる桐野と知子の眼が、お化煙突の下で幸せそうに輝いていた。