1960(昭和35年)/2/9公開 61分 モノクロ シネマスコープ 映倫番号:11537
配給:東映 製作:東映
女工殺害事件に端を発し、電話を通じて新聞社に挑戦する犯人。その謎の声を追って鎬をけずる特ダネ合戦の抜きつ抜かれつのスリルの中に新聞記者魂が躍動する。
「女工さん、行方不明?」社会面の片隅に取り上げられた何の変哲もないこの小さな記事を見た日本新聞の敏腕事件記者・清水は、これは殺人だという直感を持った。
折しも、この清水の直感を裏づける様な電話が社全部にかかってきた。女工は殺されている……電話の声は、死骸の場所を告げるとそのまま切れた。清水は、カメラマンを同行し、通報の現場である被害者が働いていた無線工場のガレージヘ直行した。清水は、工場の総務課長・池島の案内でガレージ内をくまなく探し廻ったが死骸らしきものは出てこなかった。腹の虫が収まらぬまま社へ帰って来た清水を待つように、再び怪電話がかかってきた。死骸はあったか?……嘲笑する様な電話の声に清水は憤りをぶちまけた。電話の主はそれきリ清水を捨てた。怪電話は清水のライバル毎朝新聞のベテラン事件記者・大木の許へと通報を乗り換えたのである。大木はこの電話に真実性を嗅ぎ、手廻しよく警察犬を使うと工場のボイラー室の煙突の掃除口から女工の他殺死体を発見した。
毎朝新聞のスクープは、完全に他社を押えた。大黒星は清水だ。特ダネは逃すし、デスクには怒鳴られるというていたらく。だが清水もこのまま引っ込んではいられない。被害者の親友・郁子を工場に訪ね、必死に特ダネを引き出そうとするが、肝心のところへくると郁子は口をつぐんでしまい何も引き出す事が出来なかった。しかし、清水は郁子が犯人について何かを知っているという直感を得た。一方、大木のところへは、犯人から度々電話があった。犯人は、社会に挑戦することによって自分自身をヒロイックに酔わせる異常者かもしれない。とにかく大木のいる毎朝新聞は、犯人の声をテープに録り、特ダネの一手引き受けという絶好の状態。清水としては、そこへ食い込む手段すら見当らなかった。そこへ犯人から最後の電話だと称して、被害者の時計を郵送したと報せてきた。大木は、その発信地を確かめるため、通話時間を引き延ばし、遂に犯人の使用する公衆電話の所在地が判明する。パトカーが直ちに現場へ急行したが、既に犯人の姿は無く、電話ボックスには、二人の子供がいるばかりだった。子供たちの記憶を頼りに、工場従業員の写眞の中から電話をかけていた男を探させる一方、テープの声を工場全員に聞かせ、その声の主と思われる名前を書かせた結果、塗装工・友田の線が濃厚に浮び上った。犯人は友田か?だが、友田は殺害されていた女の死体から時計を盗んだだけで、被害者のブラウスについていた犯人のものと思われる血は友田の血液型と異なるものであった。また、電話の件は、以前友田の父がエロ写真であげられた時、大きく新聞に書かれたのを恨んで新聞社への腹いせにやったということが判明した。では誰が彼女を殺害したのか?捜査は再び振り出しへと戻った。捜査一課の幸田警部は、清水の協力によって被害者の親友・郁子を呼び、彼女が隠している何らかの事実を聞き出そうとするが、郁子は何を恐れるのか強情に口を開かなかった。その日郁子は会社を早退した。工場内では、口に出来ない恐ろしい事実を彼女は握っている。その真実を工場外部から通報すべく郁子は早退したのだ。真犯人は郁子の身近、つまり工場内にいる。赤電話に震える手が触れた。だがその時、人影が音もなく郁子の前に立ちふさがっていた…。
「特ダネ三十時間」シリーズ(10)